「私が死んだら福祉葬で市町村が面倒をみてくれるから、誰にも迷惑かけない」と仰る方が居られます。結論から申し上げると、これは多くの場合は勘違いであると言えます。
福祉葬は「助成金」
福祉葬や民生葬、生活保護葬と呼ばれるものは「葬祭扶助」と呼ばれる助成金の事であり、役場の職員が火葬や納骨の世話までやってくれることを確実に約束するものではありません。(市町村によっては役場の職員が行う場合もありますが)多くの場合、身近な誰かが死後事務を務める「喪主」にならなくてはなりません。
身近な誰かがやらなくてはならない
多くの場合、戸籍を辿って親戚に連絡が行くか、病院や住居への入所時に保証人となった人が喪主を務める事になります。私の経験上、甥・姪が喪主を務めるケースが多かった様です。勿論親族が断るケースもあり、その場合はそれまで金銭管理や身体介助を行っていた地域包括支援センターや福祉施設が遺体の処理を行います。遺骨は予め親族の不在が確認されている場合を除き、火葬場で処理されずに喪主の手元に戻り、最終的には福祉施設や市役所などに保管され、霊園などに埋葬されます。
お坊さんは来ない。納骨は助成無し
更に、福祉葬では供養と納骨の助成金は出ません。供養は宗教行事(必ずしもしなくていいこと)とされているからです。お骨は喪主の手元に残り、納骨をする場合は喪主がお墓や納骨堂等を探し、お金を支払うことになります。
相談事例-会ったこともない叔父-
40代の女性からお寺に相談がありました。「実は、会ったこともない叔父なのですが、亡くなったという知らせが○△市役所から来まして。聞けば戸籍上は私が一番近いらしく、断るわけにもいかずに喪主を引き受けました。色々と大変でしたが何とか火葬も終わり納骨出来る場所を探しています。私も嫁いでいますし家のお墓に入ってもらう訳にもいきません。本立寺さんに納骨して頂けませんか」とのことでした。私はお寺で簡易な葬儀を行い、合同納骨墓に納骨を行いました。
喪主を引き受け、死後の手続きを行うという事は素人の方にとっては大変な労力になります。この女性も大変な思いをされたことでしょう。
本人が望んだ事だったのか
周りに迷惑を掛けずに死にたいと思うのが人情です。しかしこの結果は本人(叔父)が望んだものだったのでしょうか。もしかすると故人は、福祉葬や行政葬の事を思っていたかもしれません。まさか、会ったこともない姪っ子が自分を弔うことになり、苦労を背負わせる事になろうとは想像もしていなかったことでしょう。
誰にも迷惑を掛けない事があり得るか
弔いは自動的に進むものではなく、人の手によって行われています。
確かに「行政がやってくれる」場合もあります。しかしそこには関わる人の苦労や感情が伴います。看取り・遺体のお迎え・付き添い・骨上げ・納骨を行ってくれる人の存在を無視して「誰にも迷惑はかけない」と言うのは甚だ想像力の欠如といえるでしょう。
無縁社会で必要なこと
私は15年間僧侶として法務をこなしていく中で多くの「おひとり様の死の現実」に触れてきました。現在多くのおひとり様が「周囲に迷惑を掛けたくない」「尊厳を損なうような死を迎えたくない」と考え始めています。いざという時に頼れる人がいる事、人的な繋がりを作っておくことは無縁社会といわれる今後の時代にはさらに必要となってきます。
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